午前四時※ 18歳未満の方は閲覧禁止です。
ぱちりと目が覚め、布団から出ていた肩に冷たい空気が這い、思わず体が震えた。頬も冷たく、ううと唸って掛け布団を頭からすっぽりと被ろうとする。すると、目の前の大きな背中があることに気がついた。秋口で宵の冷えも厳しいというのに、また元親は上半身半裸で床に入っている。昨晩はいつ頃就寝したのだろうと思い、そっと起き上がって夫の顔を覗いてみた。ぐっすりとよく眠っている。眼帯を取らないで横になっていることからも、余程疲れていたらしい。後から手を伸ばし、紐に触れた奈々は肌に食い込む眼帯を取ってやった。ぱさりと前髪が落ち元親の目に掛かる、ので避けた。ううん、と唸った元親は煩わしそうに手を払い、うつ伏せになった。顔が見えず、少し残念に思うも奈々は露わになる広い背に体をぴとっと付け耳を当てた。頬には元親の体温が直に触れる。近頃元親は忙しいので、こんな風に触れられることは叶わない。今夜だって部屋にいるのは実に何日ぶりだろうかと、もう数えるのも面倒だった。
しかしながら、奈々が思うに、普通なら、だ。普通なら、幾日ぶりに愛妻の部屋に訪れたからには多少の期待はあっても良いのではと、そう考える。例え奈々が先に深い眠りについていても、起こして、少しの茶番の後にことに及ぶのは全く以て構わないのだ。寧ろ据え膳ではないか!と、少し腹立たしくもなる。
が、奈々はあれこれ考え気が沈んだ。もしや己に色気が無いのかと…。胸は、恐らくあると思う。美容にも日々気をつけている。いつでも準備は万全だ。
ともあれ自分自身の品評会などまったく虚しくなるばかりだ。
「元親様…私のこと好いていらっしゃらないのかしら…」
こんな言葉も漏らしてしまうのも仕方がない。とは言え、元親も日々の勤めが忙しいのだ。奈々は我慢することにしたが、今だけはこの背中を独り占めしたってバチは当たらないだろう。
背に覆いかぶさったまま、背に指で文字を書いてみる。横棒を引いた後、途中まで十字を書き、くるりと円を作って最後を払う。その後にまた二本、線を引いて、縦棒を書いて、斜線を引く。
一人相撲に「はあ」と溜息をつくと、耳に聞き馴染みのある低い声が届いた。
「おい、奈々重てえぞ…」
「元親様、おはようございます」
「おはようございますーじゃねえ、まだお天道様も登っちゃいねえだろうが!ったく」
元親は仰向けになると、奈々の腰を掴み腹に乗せ向かい合った。にこにこ嬉しそうな奈々に元親は呆れていた。朝っぱらから睡眠妨害をさせられた事にもだが、怒るに怒れない元親自身にも呆れているのである。
「久方ぶりにお会いしたというのに、奈々は寂しゅうございました」
「ったくよう、随分可愛いことしてくれんじゃねえか。背中に何て書いた?」
「教えません」
ぷいとそっぽを向く奈々の頬を元親は「がきか」と軽く摘んだ。それでも、問いに答えないので脇腹をくすぐってみる。最初は耐えていた奈々はとうとう身を捩って大笑いで元親の胸に倒れこんだ。息が上がり、火照った顔で元親の顔を覗き込んでいる。白髪の前髪に細い指が通った。
「本当に最近はお疲れなのですね。あんなに無防備に寝息を立てていらして。奈々は初めてみました」
「敵の前でぐーすか寝てみろ。あっという間に首持ってかれっだろ」
「そうですか…では、例えば今、目の前の奈々が、どこぞのくのいちだったらどうなさるのですか」
「そりゃ…」
視線を少し斜め上に動かし、しばらく逡巡した後元親は口をつぐんだ。
「あ、元親様。今、いやらしいこと考えましたね」
「ぁあん?!」
とうとう奈々との問答に痺れを切らした元親は、奈々を持ち上げるとくるりと反転させ組み敷いた。きゃと奈々は驚嘆したような素振りを見せるものの、嫌がる様子はちっともない。
それを良いことに、元親は裾を捲るとすぐさま頭をその間に埋め、おもむろに局部をぬるりと舐めた。勿論それに驚いたのは奈々だ。煽りに煽った挙句よもやこんな展開になるとは露にも思わず、抵抗する間も無く元親に翻弄されていく。
股の間で白い頭が幾度も上下し、その度に奈々は意識が朦朧としていた。からかってごめんなさい。と言わせる暇を奈々に全く与えず、元親は奈々に快楽を与え続ける。いよいよ耐えられなくなり、奈々は腰を退かせようと試みるも元親は押さえつけそれをさせない。次第に体には熱い波が押し寄せ、奈々は遂に仰け反った。
大きく股を開き、淫らな姿で息を荒げる奈々を、元親は口元を拭い見下ろしている。
「よう。いい眺めじゃねえか」
ぐったりする奈々に顔を寄せた元親は、容赦なく首筋から鎖骨に、そして胸へと唇を落としていった。一方では器用にも腰紐に手を掛け解いている。あっという間に合わせは肌蹴け、奈々の白い肌が暗がりに晒されていた。
「さっきまで随分と元気が良かったみてえだが、どうした」
にやっと口角を上げる元親は機嫌が良いのか悪いのかよく判らなかった。奈々を好き勝手して楽しんでいるようにも見受けられるが、やはり睡眠を邪魔されたのが余程腹にたまって居るらしい。
「元親様…、お疲れでは…っ、無かったのですか…」
「さっきまではな。今はそりゃ元気なもんだ」
元親は奈々の背を抱きかかえ、向かい合わせに座らせた。息つぐ間もない深い口付けを繰り返しながら、奈々の手を取り元親の熱を持ったそれに這わせ、かと思えば奈々の頭をぐいと抑え込んでいた。もう、こうなってしまえば逃げられない。
「わかるな奈々」
上から降ってくる声はいつになく高圧的で拒否権などなかった。奈々は懸命に口を開け、その先端をかぷと口に含む。深く咥えたり浅く咥えたりすると唾液が伝い、布団に染みを残していった。端から見たこの状況を想像すれば奈々は途端に恥ずかしくなる。もう少し、ゆっくり肌を重ねたかったのに…と不服でもあった。それを訴えるかのように舌で舐めたり弄ったりしてみる。上目遣いに挑戦的な視線を元親に向けたが、本人は大層満足気な様子だ。
続けている内に少しだけ、元親の吐息が多くなるのが分かった。だが奈々は止めなかった。先ほどの仕返しだとばかりに吸い上げてやると、頭をぎゅうと掴まれた。
「…ったく、ちったあ加減しろ」
奈々はゆっくり伏せていた顔を上げた。酒を飲んだかのように、元親は頬が赤みを帯びている。本音を言うと、ここ最近の多忙を極めた元親を知り得ていれば、こんな側に元親が居ることが今だに信じられなかった。
遠征や執務や、その他もろもろ長期に渡り海に出ていることだってある。奈々が嬉しそうにへなっとだらしなく笑みを浮かべると、元親は腕を広げてくれた。奈々は迷わず飛び込んだ。
「元親様がいつもこうしてお側に居てくれたらいいのに…」
「本当今日は珍しく素直じゃねえか。普段は閨事にすら散々嫌だのやめてだの喚くくせによう」
元親は話のどさくさに紛れ、奈々を抱きかかえたままいつの間にやら自身をねじ込もうとしていた。奈々はとんとん拍子に進められ案の定不貞腐れている。
「まだ嫌です」
「は?」
「お、終わってしまうではありませんか!」
「なに言ってやがる。鬼の眠りを起こした奴を早々許してなるもんか。奈々今日は一日付き合えよ…」
その日、奈々の部屋では笑いやら嬌声やらの区別のつかない戯れが遅くまで続いたが、休暇を取った筈の元親は休み明け、疲れが取れた様子は全く無かったそうだ。